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おくりびと × ドメーヌ・デ・ロンス シャラス
硬さの奥に、温もりがある。
幕間に一杯、
White — ジュラ

おくりびと
× ドメーヌ・デ・ロンス シャラス

Departures, 2008 — 滝田洋二郎
prologue
雪の残る地方のバス停から、濡れた道を歩いていく人の背中
雪が止んだあと、バス停の足跡だけが道路へ続いていた。

求人広告には「旅のお手伝い」とあった。オーケストラが解散し、チェロを手放して、妻と山形・庄内へ帰ってきた男は、旅行会社だと思って面接に行く。旅は旅でも、この世から旅立つほうの手伝いだった。

初めての現場から戻った夜、台所には隣家からもらった、絞めたばかりの鶏が置いてある。大悟はそれを見ただけで、吐いてしまう。

冬、事務所の二階で、社長がフグの白子を火であぶり、塩をふる。「これだってご遺体だよ」と言いながら、うまそうに頬張る。辞めるつもりで上がってきた大悟も、勧められて、ひとつ口に入れる。社長がぼそりと言う。「うまいんだよなあ、困ったことに」。

冷たくなった人の顔を、白い布でそっと拭く手。その同じ手で、白子をつまむ。滝田洋二郎の映画は、その矛盾を、笑いながら抱えている。

あの二階の卓に、一本置きたい白がある。雪深いジュラで、十年前に摘まれた葡萄からできたワインだ。


wine
シャラス 2016 / ドメーヌ・デ・ロンス
シャラス 2016 / ドメーヌ・デ・ロンス

一杯の肖像

ドメーヌ・デ・ロンスは、ジュラの南端、オルバニャ村の家族の蔵だ。1950年に祖父ジョルジュ・マジエが興し、父ミシェルが畑を広げて有機栽培へ切り替えた。2016年、三代目のケヴィンが蔵に加わり、同じ年にビオディナミの認証デメテールを得た。

シャラスは、その2016年の葡萄からできている。名前は、近くの造り手たちも畑を持つ古い区画「レ・シャラス」からとった。青灰色の泥灰土に、シャルドネが七、サヴァニャンが三。

二つの品種を一緒に500リットルの樽へ入れて発酵させ、そのまま二十四か月寝かせる。樽の中で減った分は、同じワインを足して満たしておく。空気に触れさせないためだ。ジュラにはわざと酸化させる白の伝統もあるが、この一本はそちらへ振らない。瓶に詰めてからも、さらに一年、蔵で休ませてから出荷された。

グラスに注ぐと、熟した白い果実とナッツ、そこにハーブが重なる。口に含むと、なめらかな舌ざわりのあとから、詰まった果実味とミネラルが広がる。最初のひと口に、わずかにアルコールの熱がのる。けれどすぐに溶けて、全体は静かな釣り合いへ落ち着いていく。

シャルドネがふくらませ、サヴァニャンが引き締める。やわらかさと張りが、同じひと口のなかにある。


pairing
引っ越し途中の和室で、器を布に包んでいる人の手
箱へ納める前、器を布でひとつずつ包んでいた。

なぜ、おくりびとにシャラスなのか

死者を送った手で、生きている人は卓につく。

困ったことに、うまい

この映画でいちばん生々しいのは、死者の場面ではなく、食べる場面かもしれない。鶏を見て吐いた男が、やがて白子を口にし、クリスマスの夜には事務所でフライドチキンにかぶりつく。社長は言う。死ぬ気になれなきゃ、食うしかない。食うんなら、うまいほうがいい。

シャラスは、そういう卓に置くための白だ。張りつめてはいるけれど、冷たいだけでは終わらない。熟した果実とナッツが、舌の上に重みを残していく。硬さの奥に、温もりがある。死者を送る映画を観ながら、生きている人間が飲むための、ちゃんとうまい白だ。

布の下で、整える

納棺師は、遺族の前で遺体の肌をさらさない。白い布を掛けたまま、その下で体を拭い、着物を着せ替える。見えるのは、布の上で動く手だけだ。急がず、ひとつずつ整えていく。その時間の長さが、遺された人への気づかいになっている。

このワインも、守られながら時間をかけて整えられてきた。樽で減った分を足して空気から守り、二年。瓶に移してから、もう一年。そのあと、ここまでの年月。

雑に扱えば崩れてしまうものを、覆いの下で、手間をかけて仕上げる。送り出す仕事と、この一本は、同じ種類の丁寧さのなかにある。

石文

言葉のなかった頃、人は自分の気持ちに似た石を選んで、相手に渡したという。受け取った人は、その重さや手ざわりから、相手の気持ちを想う。石文と呼ばれるその風習を、大悟は幼い日に、父から教わった。

自分を捨てて出ていった父の訃報が、長い年月を経て届く。冷たくなったその手をひらくと、小さな石が握られていた。子どもの頃、大悟が父に渡した石だった。

シャラスの2016年は、ケヴィンが父の蔵に加わった年の葡萄だ。祖父が拓き、父が広げた畑に、息子が加わった、その年の秋。渡されたものが、手のなかで重さを持つ。


terroir
冬のジュラの畑脇にある作業小屋。泥のついた長靴と剪定鋏、窓外の冬枯れの葡萄畑
雪の日、長靴の泥が乾くあいだ、剪定鋏は窓辺に置かれていた。

雪のジュラを旅する

フランス東部、ジュラ山地の西の裾に、細長く畑が続く。オルバニャはその南の端、なだらかな丘に囲まれた小さな村だ。冬は冷え込み、雪が畑を覆う。

足もとは、石灰を含んだ青灰色の泥灰土。水を含むと重く粘り、長靴に貼りついて離れない。冬のあいだも、畑では剪定が続く。雪の日は作業小屋へ入り、泥が乾くのを待って、また畑へ出る。

この土と冷たさが、葡萄をゆっくり熟させる。派手に甘くはならず、酸とミネラルの芯を残したまま、果実が詰まっていく。シャラスの密度は、この遅さから来ている。

庄内の川を、鮭が上っていく。橋の上からそれを見ていた大悟に、銭湯の常連の平田が言う。「帰りてえんでしょうのう。生まれ故郷に」。生まれた土地へ戻っていくもの。雪の庄内と雪のジュラは、そこで重なる。


how to drink
冬の夕食後の食卓。食べかけの白身魚と湯気の残る椀、引かれた椅子
席を立ったあとも、椀からまだ湯気が上がっていた。

この映画の夜に

温度: 10〜13℃。冷やしすぎると、果実とナッツの香りが閉じてしまう。上映の少し前に冷蔵庫から出して、テーブルに置いておく。

グラス: 大きめのボウル。なめらかな質感と、ハーブの香りが広がる余地をつくる。

時間: 130分。冒頭から注ぐ。前半は、思いのほか笑える。広告の勘違いも、ぎこちない初仕事も。最初のひと口のアルコールの熱も、この頃にはもう溶けている。社長が白子をあぶる頃に、注ぎ足す。最後のひと口は、父の手がひらく場面のために残しておく。

食事: 手に入るなら、映画のとおりに白子を軽くあぶって、塩をふる。白子のやわらかさを、ワインのなめらかさが受けとめ、サヴァニャンの張りが後味を引き締める。白子がなければ、焼いた白身魚、きのこの椀、湯葉でもいい。湯気の立つものを。

ヴィンテージ: 2016年。瓶に詰めてから長い時間を過ごし、角はもう取れている。


epilogue

.

父の手から出てきた石を、大悟は、妻のお腹にそっと当てる。

言葉は、ひとつもない。

グラスには、十年前に摘まれた白が、まだ少しだけ残っている。


Film

おくりびと / Departures 2008 / 日本 / 130分(日本公開 2008-09-13) 監督: 滝田洋二郎 音楽: 久石譲 原作: 青木新門『納棺夫日記』 出演: 本木雅弘, 広末涼子, 山崎努, 余貴美子, 笹野高史 受賞: 第81回アカデミー賞 外国語映画賞(日本映画初) 舞台: 山形県・庄内

配信
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Wine

Domaine des Ronces / シャラス(Charasse)2016 Chardonnay 70% / Savagnin 30% 混醸・500L樽で発酵 / 樽で24か月・瓶で12か月熟成 / ウイヤージュ(補酒) ビオディナミ(Demeter) Côtes du Jura, France

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シャラス 2016

ドメーヌ・デ・ロンス

Region
ジュラ
Grape
Chardonnay 70% / Savagnin 30%
Type
white
Vintage
2016

シャルドネ サヴァニャン

残りわずか

表示価格は税込

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この一杯に近い幕


Film

Departures

2008 / JP / Dir. 滝田洋二郎

配信

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Wine

ドメーヌ・デ・ロンス / シャラス 2016

Chardonnay 70% / Savagnin 30%

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