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水始涸の便り

色が深く、夜が早くなる。余韻は長く残り、ワインは少しずつ温めたくなる。

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水始涸秋分
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土を喰らう十二ヵ月 × 環 meguru
土から、土へ、めぐる。

From the soil, back to the soil.

土を喰らう十二ヵ月

幕間に一杯、
White — 北海道

土を喰らう十二ヵ月
× 環 meguru

The Zen Diary, 2022 — 中江裕司
prologue
雪明かりの台所で、土のついた根菜を流水で洗う手元
洗って、食べて、また土へ

観終わって、いちばん覚えているのは湯気だ。

雪の下から掘り出した芋。茹で上がったばかりの筍。釜の飯。長野の山荘に一人で暮らす作家のツトム(沢田研二)は、畑のものと山のものを自分の手で料理して、書いて、食べて、一年を過ごす。

映画は二十四節気の章立てで進む。物語というより、暦だ。訪ねてくる恋人の真知子と旬のものを食べる。義母を見送る。自分も倒れる。それでも春が来ると、また畑を起こす。

ツトムの手元には、13年前に亡くした妻の遺骨がある。墓に納められないまま、いまも彼が煮炊きする台所のかたわらにある。死がずっとそこにあるのに、この映画は暗くない。掘って、洗って、茹でて、食べる。どんな感傷よりも、この繰り返しのほうが強い。

土から出たものを食べて、人もいつか土に還る。

その円環に、そのまま「環」という名前をつけたワインが、雪国の畑にある。


wine
環 meguru 2022 / じき
環 meguru 2022 / じき

一杯の肖像

淡い麦わら色。香りは洋ナシと柑橘、その奥に、ほんの少しの発酵の気配。口に含むと、果実より先に旨みが来る。出汁のような、澄んでいるのに厚みのある味。よく冷やすと輪郭が立ち、少し緩むとふくらむ。

造っているのは、余市の「じきの畑」。2015年に家族で余市へ移り住み、2017年の春に独立した小さな農園だ。ワイン用のブドウを軸に、野菜も梅も栗も育てる。畑はすべて有機JAS認証。羊糞や籾殻を発酵させた堆肥で、まず土をつくるところから始める。

屋号の「じき」には、三つの意味が込められている。時季。正直。喰。

自前の醸造所は持たない。収穫したブドウとともに岩見沢のワイナリーへ赴き、秋の約2ヶ月、泊まり込みで自ら仕込みに立ち会う。育てた人が、仕込みまで見届ける——農家のワインだ。

そして「環」。畑でブドウがワインになり、人がそれを飲み、飲んだ人がまた畑を耕す。その循環を、一本にする。


pairing
雪の残る家の裏で野菜くずを木の堆肥箱へ戻す手元
食べたあとのものも、土へ還っていく

なぜ、土を喰らう十二ヵ月に環なのか

手放して、還して、また注ぐ。

環と十二ヵ月

映画の一年は、直線ではなく環だ。立春の雪から始まって、めぐって、また雪に戻る。掘った芋は食卓になり、生ゴミは堆肥になり、堆肥は畑に還って、次の芋になる。ツトムの台所は、その環のいち区間にすぎない。

「環 meguru」という名前は、この構造の要約だ。畑でブドウがワインになり、人が飲み、飲んだ人がまた畑を耕す。造り手が一本に込めたのは味の説明ではなく、順路だった。

映画を観てからこのラベルを見ると、名前が映画の粗筋に見えてくる。

じき——時季、正直、喰

屋号の三つの意味は、そのままこの映画の三つの柱でもある。

時季。ツトムの料理は旬に従う。筍は待ってくれないし、梅仕事の日は梅が決める。暦に従う暮らしは、ブドウ農家の一年と同じ設計だ。

正直。土井善晴が手がけた劇中の精進料理は、素材を誤魔化さない。このワインも同じで、培養酵母も清澄剤も使わず、濾過もしない。淡いのに厚い、出汁のような旨みは、足し算では作れない味だ。

喰。じきの「き」に当てられたこの字は、映画の題名の一字と同じだ。「食べる」ではなく「喰らう」。上品ぶらない、土のついたままの動詞。

発酵は、小さな輪廻

この映画では、死と台所が同じ部屋にある。妻の遺骨のそばで筍が茹だり、義母の葬儀でツトムは自ら精進料理を振る舞う。食べることは、死んだものの命を受け取ることだと、映画は湿っぽくならずに言い続ける。

ワインは、その言い分の飲める形だ。潰れたブドウが酵母に食われて、酒になる。羊糞と籾殻が土に還って、次の房になる。発酵も堆肥も、死んだものが次の命に変わる小さな輪廻で、グラスの中の旨みはその変換の味そのものだ。

だからこの一杯は、映画のラストシーンと同じことをしている。手放して、還して、また注ぐ。


terroir
雪に囲まれた余市の農場で籾殻と堆肥を切り返す作業者
雪の季節にも、次の土をつくる

余市を旅する

北海道の余市は、雪の産地だ。積丹半島の付け根、日本海からの湿った風が、冬のあいだ畑を深い雪で覆う。

雪は敵ではない。ブドウの樹を寒風から守る布団であり、春にゆっくり溶けて畑を潤す貯水池でもある。信州の山荘でツトムが雪の下から芋を掘り出すように、余市の畑も、雪と組んで一年の設計を立てる。雪国の暦は、雪を待つところから始まる。

夏は涼しく、昼夜の寒暖差が大きい。ブドウはゆっくり熟して、酸を失わない。環の澄んだ輪郭は、この遅さの産物だ。

じきの畑は、この丘で土づくりから始めた。羊糞、籾殻、そば殻。化学肥料で急がせず、堆肥で土を育て、その土にブドウを育てさせる。「土を喰らう」という映画の題名は、ここでは比喩ですらない。ブドウは文字どおり、この畑の土を飲んで、この色になっている。

収穫の秋、造り手はブドウと一緒に岩見沢へ移動して、仕込みの2ヶ月を過ごす。畑から瓶まで、同じ手が見届ける。

その一部始終ごと、「環」は瓶に入っている。


how to drink
夜の木の食卓に並ぶきのこご飯、青菜、味噌汁と箸
映画の前に、まず台所に立つ

この映画の夜に

温度: 10℃前後から。よく冷やして輪郭を楽しみ、あとは放っておく。緩むほどに旨みがふくらむ。

グラス: 大ぶりでなくていい。湯呑みほどの気安さで、食卓に置けるものを。

食事: この映画に限っては、観る前に台所に立つことを勧めたい。きのこの炊き込みご飯、青菜のお浸し、味噌汁。映画の精進に倣って肉を休ませてみると、このワインの出汁のような旨みが主役になる。

タイミング: 一時停止を恐れないこと。劇中の料理に手元が疼いたら、止めて、何か作って、続きを観ればいい。111分は逃げない。

残り: 一本を一晩で空けなくていい。翌日の一杯は少し表情が変わっている。それも「めぐり」のうち。


epilogue

.

土から出たものを、いただく。

いただいた命で、また畑を耕す。

グラスひとつぶんの、輪廻。


Film

土を喰らう十二ヵ月 / The Zen Diary 2022 / 日本 / 111分 監督・脚本: 中江裕司 原案: 水上勉『土を喰う日々―わが精進十二ヵ月』 劇中料理: 土井善晴 出演: 沢田研二, 松たか子, 奈良岡朋子, 火野正平, 檀ふみ

配信
見放題 Hulu / U-NEXT / FOD
レンタル Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies
2026年9月時点 · JustWatch

Wine

jiki(じきの畑) / 環 meguru 2022 シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン 全圃場有機JAS認証 / 野生酵母 / 無濾過・無加熱 余市, 北海道

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環 meguru 2022

環 meguru 2022

じき

Region
北海道
Grape
Chardonnay, Sauvignon Blanc, Pinot Blanc
Type
white
Vintage
2022

シャルドネ、ソーヴィニヨンブラン、ピノブラン

残りわずか

表示価格は税込

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環 meguru 2022
じき
¥6,290

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Film

The Zen Diary

2022 / JP / Dir. 中江裕司

配信

見放題
Hulu / U-NEXT / FOD
レンタル
Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies

2026年9月時点 · JustWatch

Wine

じき / 環 meguru 2022

Chardonnay, Sauvignon Blanc, Pinot Blanc

北海道

¥6,290

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