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冬物語 × ドメーヌ・ピニエ プルサール・アン・ショーヌ
氷の下で、春はもう動いている。
幕間に一杯、
Red — ジュラ

冬物語
× ドメーヌ・ピニエ プルサール・アン・ショーヌ

Conte d'hiver, 1992 — エリック・ロメール
prologue
冬の集合住宅の踊り場で、買い物袋を持った人が手すりの向こうを上っていく
踊り場を曲がるまで、買い物袋の音が続いていた。

夏の島で、二人はほとんど話さない。海で泳ぎ、陽に焼けた肩を寄せあい、笑う。台詞はなく、音楽だけが流れている。

別れぎわ、フェリシーは男に住所を伝える。町の名を取り違えたことに、彼女はまだ気づいていない。

五年後の冬。パリの美容室で、フェリシーは客の髪を切っている。蛍光灯の白い光と、鏡のなかの自分。家に帰れば、あの夏に授かった娘が待っている。

言い寄る男は二人いる。本をよく読む、穏やかな男。店を持ち、一緒に来いと言う男。どちらも、手を伸ばせば届くところにいる。それでも彼女は、連絡のつかない一人を待っている。

誰にでも、もう届かない宛先がひとつくらいある。書き損じた手紙や、言いそびれた一言。エリック・ロメールの『冬物語』は、その宛先を五年間手放さずにいる人の、冬の話だ。

冷蔵庫から出した瓶を開ける。注いだ赤は、驚くほど淡い。冬の窓辺に落ちた影くらいの色だ。


wine
Poulsard En Chone 2023 / ドメーヌ・ピニエ
Poulsard En Chone 2023 / ドメーヌ・ピニエ

一杯の肖像

グラスを明かりにかざすと、赤というより、ロゼとのあいだにいるような透明さだ。ピノ・ノワールよりもまだ淡く、縁まで光が通る。

開けたばかりの瓶からは、少しつんとした匂いが立つ。亜硫酸を足さない自然派のワインには、ときどきこういう目覚めの悪さがある。グラスを二、三度まわして、しばらく待つ。

やがて、果実が起きてくる。野イチゴ、赤スグリ、ラズベリー。摘んだばかりのような、みずみずしい赤い実だ。クランベリーの甘酸っぱさがかすかに混じり、その後ろに白胡椒と乾いたハーブ、チョークを削ったような硬いミネラルがいる。

口に含むと、やわらかい。舌の上をすべるというより、じわっと染みていく。甘さはない。生き生きとした酸が全体をきゅっと引き締め、渋みはほとんど感じない。絹のように、なめらかに喉を通っていく。

飲み込んだあと、酸と一緒に、出汁のような旨味が残る。その余韻が、思いのほか長い。色の薄さからは想像できない深さだ。

造っているのは、ジュラ南部の村モンテギュのドメーヌ・ピニエ。十三世紀、カルトジオ会の修道士がこの地で葡萄を仕込み、革命で去ったあと、1,794年にピニエ家が蔵を買った。いまは兄弟姉妹の三人が、同じ石の地下で樽を寝かせている。

プルサールはジュラの土着品種だ。皮が薄く、年によって収量が大きく揺れる。ピニエでも、造れる量は多くない。手で摘んで除梗し、約十五日醸す。野生酵母で発酵させ、糖は足さない。樽で七ヶ月休ませ、亜硫酸は加えず、濾過もせずに瓶に詰める。

葡萄は、2023年のものだ。


pairing
冬の夕方、曇ったバスの窓越しに歩道を急ぐ人がぼけて見える
扉が閉まる直前、窓の向こうを一人が通り過ぎた。

なぜ、『冬物語』に、プルサール 2023 なのか

淡い赤が、空気に触れて、目をさます。

美容室の鏡

フェリシーは、はっきりとは断らない。けれど、身を預けもしない。店を持つ男に誘われて荷物をまとめ、娘を連れて地方の町ヌヴェールまで行く。そこで教会にひとり入り、腰をおろす。出てきたとき、彼女にはもうわかっている。ここではない、と。

周りの誰もが、現実を見ろと言う。外から見れば、彼女の待ち方は頑固で、閉じている。

開けたばかりのこのワインも、最初は少しつんとしている。すぐには果実を見せない。けれどそれは、中身がないからではない。まだ、起きていないだけだ。

動きだす像

本をよく読む男に誘われて、フェリシーは劇場へ行く。演目はシェイクスピアの『冬物語』。死んだと思われていた王妃が、石の像として運ばれてくる。音楽が鳴り、像が、ゆっくりと息をしはじめる。

客席のフェリシーは、身じろぎもせず舞台を見つめている。信じつづけた者の前で、冬が解ける。それは芝居のなかの奇跡であると同時に、彼女がこの五年、毎日していることでもある。

そのころ、グラスのなかでも同じことが起きている。空気に触れた淡い赤から、野イチゴとラズベリーが一気にひらく。画面の冬は灰色のままなのに、口のなかにだけ、もう春が来ている。

クリスマス前のバス

年の瀬のパリ。娘と乗ったバスで、フェリシーは顔を上げる。そこに、あの夏の男がいる。

よくしゃべる映画のなかで、この場面だけは言葉が少ない。五年分の説明もない。待っていた人が、ただそこに現れる。

最後のひと口は、飲み込んだあとが長い。きれいな酸が引いたあと、出汁のような旨味がじんわりと残る。淡い色の奥に、これだけのものがしまわれていた。待っていた時間の、味がする。


terroir
石造りの醸造所の入口で、泥のついた長靴の作業者が木箱を運ぶ
午後、石の入口まで泥のついた木箱が戻ってきた。

モンテギュを旅する

アルボワから南へ、およそ40キロ。ジュラの山並みが平野へ落ちる手前に、谷が袋小路のように切れこんでいる。モンテギュは、その奥の小さな村だ。

村に、ほかの造り手はいない。隣の畑から農薬が流れてくることもない。ピニエ家は2,003年にデメテールの認証を受け、ビオディナミの調剤も、ほとんど自分たちの手でつくっている。

プルサールの畑は、ヴァル・ド・ソルヌの南向きの斜面にある。足もとは、青みがかった泥灰土。冬なら、剪定を終えた低い樹が、冷たい斜面に並んでいるはずだ。

蔵の住所は Cellier des Chartreux。カルトジオ会の倉、という意味だ。修道士が去って二百年以上たったいまも、その名が番地に残っている。石の階段を降りれば、十三世紀の地下室で、樽が冬を越している。

縁まで光を通す淡い赤は、この谷の土と、同じ地下で季節を待つ時間から来ている。


how to drink
冬の夜、食べ終わりかけの魚とパンの皿を残して人が席を立つ
皿が空くころ、一人がコートを取りに立った。

この映画の夜に

温度: 12〜14℃。冷蔵庫から出して、映画を始める三十分ほど前に抜栓する。冷やしすぎると、果実が眠ったままになる。グラスのなかで少しずつ温まるにつれて、赤い実の香りが開いてくる。

グラス: ピノ・ノワール用のような、口のすぼまった大ぶりのもの。注いだら一度、明かりにかざしてほしい。縁まで光が通る淡さが、この品種の顔だ。

開けたて: 最初の香りが少しつんとしても、心配はいらない。グラスをまわして数分置けば、野イチゴとラズベリーが起きてくる。

時間: 約114分。冒頭の夏の島の場面で注ぐ。まだ閉じた香りと一緒に、長い冬へ入っていく。物語が後半に入り、劇場へ向かうころに注ぎ足す。像が息をするころには、グラスの果実もひらいている。最後のひと口は、バスの場面まで残しておく。

食事: 冬の夜なら、豚しゃぶをポン酢で。豚の脂の甘さを、このワインの酸がすっと切る。焼き鳥を塩で、カツオのタタキ、筑前煮のような出汁の料理もいい。余韻の旨味が、出汁と重なる。チーズなら、同じジュラのコンテを。

ヴィンテージ: 2023年。収量の揺れやすい品種で、造られる量は多くない。


epilogue

.

劇場で、像が息をする。

年の瀬のバスに、あの夏の男がいる。

空になったグラスから、まだ野イチゴの匂いがする。


Film

冬物語 / Conte d'hiver (A Tale of Winter) 1992 / フランス / 114分 / 日本公開 1992年12月19日 監督・脚本: エリック・ロメール(「四季の物語」第二作) 撮影: リュック・パジェス 音楽: セバスチャン・エルムス 出演: シャルロット・ヴェリ, フレデリック・ヴァン・デン・ドリーシュ, ミシェル・ヴォレッティ, エルヴェ・フュリク ほか

配信 主要配信では見つかりません
2026年9月時点 · JustWatch

Wine

Domaine Pignier / Poulsard En Chône 2023 プルサール 100% ビオディナミ(Demeter) / 手摘み・除梗・約15日醸し / 野生酵母・補糖なし / オーク樽約7ヶ月 / SO2無添加・無濾過 Montaigu, Côtes du Jura, France

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Poulsard En Chone 2023

ドメーヌ・ピニエ

Region
ジュラ
Grape
Poulsard 100%
Type
red
Vintage
2023

プルサール100%

残りわずか

表示価格は税込

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Film

Conte d'hiver

1992 / FR / Dir. エリック・ロメール

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Wine

ドメーヌ・ピニエ / Poulsard En Chone 2023

Poulsard 100%

ジュラ

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