
初夏の夕方、友だちが、知らない人を一人連れてくる。
友だちの友だちだという。三人でテーブルを囲むのは初めてで、最初のうちは、話がどこに向かうのかわからない。
栓を抜く。白ワインのつもりで、グラスに注ぐ。
注いでから、あれ、と思う。グラスの中身が、うっすら赤い。
口に含むと、赤い果実が明るくて、酸がきれいだ。そのまま飲み込むと、喉の奥に、ほんの少しだけ苦みが残る。
白だと思っていたものが、白ではなかった。
気づいたときには、もう少し、好きになっている。
1987年、パリ郊外の新しい街にも、そういう気づき方をした人がいた。
ブランシュは、セルジー=ポントワーズに越してきたばかりだ。市役所の新しい仕事と、新しい部屋。部屋にはまだほとんど家具がなくて、ホテルの一室のように見える。窓の外には、人の少ない広場と、遠くのパリ。
昼の食堂で、ブランシュはレアと同じテーブルになる。レアは年下で、よくしゃべって、物おじしない。二人はその日のうちに、友だちになる。
レアには、一緒に暮らしている恋人がいる。ファビアンという。
ブランシュにとってファビアンは、はじめ、友だちの恋人でしかない。

一杯の肖像
グラスを光にかざす。
色は、チェリーの赤を水で薄めたような、明るい赤。縁のほうは琥珀に透けている。赤ワインほど濃くない。白ワインと呼ぶには、赤すぎる。
鼻を近づけると、香りは華やかだ。赤い果実と、花。黙っていても向こうから話しかけてくるような、人なつこい香りだ。
口に含む。果実は細身で、甘くはない。赤い果実の酸が先に来て、すっぱい果物をかじったときのように、口の中がきゅっとする。
飲み込むと、そのあとに、ほろ苦さが来る。皮ごと長く漬け込んだワインにだけ残る、かすかな苦み。嫌な苦みではない。むしろ、もう一口に手が伸びる理由になる苦みだ。
葡萄は、一種類ではない。ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、リースリング、ピノ・ノワール、オーセロワ、シルヴァネール、シャスラ。アルザスの畑に並んで育つ七つの品種を、ひとつのタンクで、皮ごと38日間いっしょに過ごさせる。白い葡萄が多いのに、ワインがうっすら赤いのは、そのあいだに色の濃い皮が、少しずつ色を移すからだ。
酵母は畑と蔵に棲むものだけ。足すのは、ごく少量の亜硫酸だけ。最後は、19世紀から使われている木製の垂直式圧搾機を手で締めて、時間をかけて搾る。
名前は、Les Copines des Copains。訳すと、「友だちの、女友だちたち」。

なぜ、友だちの恋人にレ・コピンヌ・デ・コパンなのか
白だと思っていたものが、白ではなかった。
街の真ん中で — 冷たいうちに
ブランシュが最初に好きになるのは、ファビアンではない。
アレクサンドルという、人あたりのいい技師だ。レアの知り合いで、女の子の扱いに慣れていて、話がうまい。ブランシュは、ぎこちなく近づいては、うまく話せずに帰ってくる。
この映画の人たちは、よく泳ぎに行く。街のプールでは、四人の行き先が何度も交差する。ブランシュもレアも、水の中ではあまり自信がない。
グラスを開けるなら、このあたりがいい。冷蔵庫から出したばかりのうちは、華やかな香りが前に出る。赤い果実と花が、明るく話しかけてくる。アレクサンドルと同じで、最初に目を引くのは、いちばん声のよく通る香りだ。
一方、レアとファビアンの関係は、もうあまりうまくいっていない。
湖と森で — ぬるくなってくる
レアが街を離れているあいだ、ブランシュとファビアンは、二人で過ごすことが増える。
ファビアンはウィンドサーフィンに夢中な青年だ。二人は街はずれの湖へ行き、オワーズ川の岸を歩き、森の小道に入っていく。街の中心から離れるほど、景色は緑になり、二人は少しずつ正直に話すようになる。
グラスも、このころにはぬるくなりはじめている。華やかな香りが一歩下がって、赤い果実の酸と、あのほろ苦さが前に出てくる。最初は気づかなかった味が、いちばん手前にある。
ブランシュはそれでも、友だちを裏切ることはできない、と言う。
けれど、森のそばの、どこを見ても緑の場所で、ブランシュは気持ちを抑えきれなくなる。二人はそこで、初めてキスをする。
そのあと二人は、そろって緑の服を着ている。
あのほろ苦さは、たぶん、そういう味だ。好きになってはいけない人を好きになったときの、少しの後ろめたさ。それでも、もう一口に手が伸びる。
川辺のレストランで — グラスの底に
レアが戻ってくる。そして、レアのほうも、もうファビアンを選んではいなかった。レアの気持ちは、アレクサンドルに向かっている。
最後の場面は、オワーズ川のほとりのレストランだ。ブランシュとレアは偶然そこで顔を合わせ、ぎこちなく、それぞれの新しい恋を打ち明ける。ひとつ勘違いがあって、それがほどけて、ファビアンとアレクサンドルもテーブルにやって来る。
四人が並ぶと、服の色が目に入る。
レアとファビアンが、青。ブランシュとアレクサンドルが、緑。
組み合わせは入れ替わったのに、服の色だけが、元の組み合わせのままになっている。
グラスの底のほうでは、もう、どの品種の味なのか区別がつかない。華やかな香りも、赤い果実も、酸も、苦みも、ひとつの味として舌の上にある。38日間を同じタンクで過ごした七つの品種は、誰が誰の隣にいたのか、もう言えない。
ロメールはこの映画に、ひとつの格言を掲げた。Les amis de mes amis sont mes amis——友だちの友だちは、友だち。
オシェール夫妻は、このワインに、ほとんど同じ構文の名前をつけた。
薄い赤のワインなら、ほかにもある。それでもこの一本をこの映画の隣に置くのは、最初に惹かれた香りと、最後にグラスに残る味が違うからだ。ブランシュが最初に好きになった人と、最後に隣にいた人が違ったように。

輪の中の村へ
セルジー=ポントワーズの市章には、青い帯と緑が描かれている。
蛇行するオワーズ川が、緑の森をぐるりと抱くように囲んでいる。その青と緑だ。ロメールが登場人物に着せた二つの色は、もともと、この街の紋章の色だった。
青い輪が、緑を囲んでいる。
そこから東へ、ヴォージュ山脈を越えたアルザスに、エギスハイムという村がある。
村に入ると、石畳の路地がゆるやかに曲がっている。曲がったまま、木組みの家々の前をどこまでも続いていく。中世の城壁に沿って、通りが同心円を描いているのだ。歩いているうちに、いつの間にか一周して、さっき通った花の窓の前に戻ってくる。
この輪の中の村で、ユベールとエイディのオシェール夫妻は、小さなドメーヌを営んでいる。畑は3.75ヘクタール。有機で育て、馬で耕し、手で摘む。
ヴォージュの山が西からの雨をさえぎるので、この斜面は乾いていて、日が長い。葡萄はゆっくり熟して、香りを溜めこむ。ゲヴュルツトラミネールの華やかさは、この日照から来る。
収穫の日、畑に並んでいた七つの品種は、同じ蔵へ運ばれる。
輪の中で摘まれた友だちたちが、ひとつのタンクで、38日間を過ごす。

友だちの友だちが来る夜に
友だちから連絡が来る。今度の土曜、もう一人連れていってもいい?
いいよ、と返して、この一本を冷蔵庫に入れておく。
当日は、よく冷やしたボトルを、テーブルに出して少し置く。キッシュを焼いておく。ベランダがあるなら、窓を開けておく。
グラスは三つ。
注ぐと、友だちの友だちが、あれ、白じゃないんだ、と言う。
そこでラベルを見せる。Les Copines des Copains。友だちの、女友だちたち。
名前を訳したところで、テーブルの空気が少しゆるむ。話は、それぞれの友だちの話になって、友だちの恋人の話になって、昔好きだった人の話になる。
グラスがぬるくなるころには、苦みが少し前に出ている。話のほうも、たぶん、少しだけ本当のことになっている。
映画は、そのあとで観てもいい。102分。ボトルは、話しているうちに空いている。
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友だちの友だちは、友だち。
白だと思っていたものが、少し赤い。
輪ごと、注ぐこと。
Film
友だちの恋人 / L'Ami de mon amie (Boyfriends and Girlfriends) 1987 / フランス / 102分 監督・脚本: エリック・ロメール(「喜劇と格言劇」第6作) 出演: エマニュエル・ショーレ, ソフィー・ルノワール, エリック・ヴィラール, フランソワ=エリック・ジェンドロン, アンヌ=ロール・ムーリ
配信
レンタル Prime Video
2026年9月時点
Wine
Hubert & Heidi Hausherr / Les Copines des Copains 2022 ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、リースリング、ピノ・ノワール、オーセロワ、シルヴァネール、シャスラの混醸 有機栽培・馬耕 / 38日間のマセラシオン / 天然酵母 / 19世紀の手動垂直式木製圧搾機 / 亜硫酸はごく少量のみ アルコール度数 14.5%前後 Eguisheim, Alsace, France



