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水始涸の便り

色が深く、夜が早くなる。余韻は長く残り、ワインは少しずつ温めたくなる。

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水始涸秋分
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リトル・フォレスト 冬・春 × もぐら
雪の下で、甘くなるものたちへ。

For everything that sweetens under the snow.

リトル・フォレスト 冬・春

幕間に一杯、
White — 新潟

リトル・フォレスト 冬・春
× もぐら

Little Forest: Winter/Spring, 2015 — 森淳一
prologue

大根の皮をむいて、厚めに切る。下茹でをして、紐に通す。それを、雪の降る外に吊るしておく。

夜のあいだに、大根は凍る。昼の光で、少しだけ溶ける。凍って、溶けて、また凍る。そのたびに水が抜けて、白かった大根は、飴色に縮んでいく。

いち子の声が、その手順を淡々と数えていく。都会から小森に戻ってきた彼女は、冬のあいだ、こういう仕事で毎日を埋めている。凍らせて、干して、漬けて、春を待つ。

寒いほど、甘くなる。凍み大根も、干し柿も。

その鍋の横に、グラスをひとつ置きたい。ひと冬をかけて出来上がった、新潟の白だ。


wine
もぐら 2022 / カーブドッチ
もぐら 2022 / カーブドッチ

一杯の肖像

新潟市の西、角田山のふもと。日本海から歩いてすぐの砂の畑に、カーブドッチというワイナリーがある。醸造家の掛川史人は、ここで動物の名前をつけたワインを造っている。もぐらは、そのシャルドネだ。

2022年は、雨の多い年だった。それでも自社畑のシャルドネには、不思議と病気がほとんど出なかったという。

摘んだ房は、まず冷やす。粒を外して軽く潰し、果汁を皮と一晩いっしょに置く。発酵は、久しぶりに、蔵にいる天然の酵母に任せた。三日ほどかけて酵母を起こしてから、仕込むやり方だ。

発酵は、思うようには進まなかった。冬を越し、春を過ぎても、まだ糖が残っていた。すべてを食べ切ったのは、翌年の八月だったという。

グラスに注ぐと、淡い金色。熟した洋梨、りんごの蜜、杏仁豆腐。乳酸飲料のような、やわらかい匂いも混じる。

開けたばかりのときは、その奥に、少し酸っぱい匂いが浮いている。酢に似た匂いだ。雨の年らしい、伸びやかな酸もいっしょにいる。

その酸っぱさは、二日、三日と経つうちに引いて、旨味に変わっていくと造り手は言う。皮と一晩過ごしたぶんの厚みと、樽で育ったふくらみが、あとから前に出てくる。

アルコールは12.5%。


pairing
雪をよけて畑の土から冬キャベツを確かめる手
雪の下で、土と甘さに触れる

なぜ、リトル・フォレストにこの白なのか

待ったぶんだけ、あとからおいしくなる。

凍み大根

凍み大根は、生の大根とは別の食べ物だ。一度凍って、溶けて、水の抜けた身は、煮るとスポンジのように出汁を吸う。噛むと、中から甘い汁が出てくる。

生のままのほうが、見た目はきれいだ。けれど、凍らせて、待ったほうが、うまい。

もぐらも、開けたその晩より、二日目、三日目のほうがほどけてくる。最初の酸っぱい匂いが抜けたあとに、旨味が残る。冬の台所の食べ物と同じで、このワインも、時間を置いてからがおいしい。

お好み焼きの味

春、いち子は春キャベツでケーキを焼こうとする。キャベツの甘さを生かしたかった。けれど何度焼いても、どうしてもお好み焼きの味になってしまう。

思った通りにはならない。それでも、それは彼女の台所から出てきた、彼女の味だ。

2022年のもぐらも、思った通りには進まなかった。久しぶりに蔵の酵母に任せたら、発酵は何か月も長引いた。開けると、酸っぱい匂いが少し残っている。

教科書どおりのシャルドネなら、それは欠点と呼ばれるかもしれない。けれど造り手は、それも含めて、自分の好きな味に仕上がったと話している。

八月まで

2022年の秋に仕込んだシャルドネは、なかなか発酵を終えなかった。冬を越しても、春が来ても、まだ糖が残っていた。すべてを食べ切ったのは、翌年の八月だったという。

いち子の冬も、急がない。雪が解けるまで、畑ではほとんど何もできない。凍らせて、干して、漬けて、待つ。

雪の下で、春の準備は静かに進んでいる。グラスの中にあるのは、蔵の中でひと冬を待った白だ。


terroir
角田浜の砂の農道と防風林、その先に見える冬の日本海
砂の下で、次の季節はもう始まっている

新潟・角田浜を旅する

新潟の市街地から、車で三十分ほど。角田山が日本海に落ち込むあたりで、畑の土が砂に変わる。1992年、この砂の上にヨーロッパの品種を植えるところから、カーブドッチは始まった。

畝のあいだを歩くと、靴が砂に沈む。雨が降っても、水はすぐに下へ抜けていく。雨の多い日本では、珍しい畑だ。

海からは、一年じゅう西風が吹く。冬の雪は、新潟にしては少ない。

2022年の夏は、雨が続いた。それでもこの砂の上のシャルドネは、健やかなまま摘まれた。

二月、剪定を終えた樹が、角田山の下に並ぶ。雪の下ではなく、砂の下で、次の季節の準備はもう始まっている。


how to drink
雪の見える農家の台所で湯気を上げる琺瑯鍋と切りかけの大根
完成品より、作っている時間がうまい

この映画の夜に

この一本は、二晩に分けて飲んでほしい。映画はおよそ120分で、前半が冬、後半が春だ。

一晩目: 冬のパートだけを観る。開けたての酸っぱい匂いに、驚かなくていい。グラス一杯か二杯で止めて、栓をして、冷蔵庫に戻す。

二晩目: 二日か三日おいて、春のパートを観る。酸っぱさが引いて、洋梨と旨味が前に出ている。同じ瓶とは思えないかもしれない。

温度: 9〜11℃。冷やしすぎると、厚みが閉じてしまう。雪の日の台所くらいの冷たさでいい。

グラス: 蕎麦猪口でも悪くない。二晩の変化を確かめるなら、ふくらみのある白ワイン用のグラスがいい。

食事: 一晩目は、冬の台所のもの。納豆餅、味噌焼きおにぎり、凍み大根の煮物。二晩目は、春のもの。山菜の天ぷら、ばっけ味噌。春キャベツでケーキがうまく焼けなかったら、ソースをかけてお好み焼きにしてしまえばいい。

タイミング: 料理をしながら注ぐ。まな板の横にグラスを置いて、煮物の味見と交互に。


epilogue

.

軒下で、大根が凍っている。 夜が明ければ、少し溶ける。

冷蔵庫の中で、 瓶の残りの半分が、春を待っている。


Film

リトル・フォレスト 冬・春 / Little Forest: Winter/Spring 2015 / 日本 / 120分 監督・脚本: 森淳一 原作: 五十嵐大介 出演: 橋本愛, 三浦貴大, 松岡茉優, 桐島かれん

配信
見放題 U-NEXT / Anime Times Amazon Channel / FOD Channel Amazon Channel / Plus Shochiku Amazon Channel ほか
レンタル Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies
2026年9月時点 · JustWatch

Wine

Cave d'Occi(カーブドッチ)/ もぐら 2022 Chardonnay / Alc. 12.5% / どうぶつシリーズ 除梗破砕・一晩のマセラシオン / 天然酵母で発酵(翌年8月に完了) / 樽熟成 砂質土壌 / 新潟・角田浜

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もぐら 2022

もぐら 2022

カーブドッチ

Region
新潟
Grape
Chardonnay
Type
white
Vintage
2022
Serve
9–11℃

日本ワインらしい静けさと丸み。温度を上げすぎず、食卓でゆっくり開かせたい白。

販売中

表示価格は税込

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もぐら 2022
カーブドッチ
¥3,850

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Film

Little Forest: Winter/Spring

2015 / JP / Dir. 森淳一

配信

見放題
U-NEXT / Anime Times Amazon Channel / FOD Channel Amazon Channel / Plus Shochiku Amazon Channel ほか
レンタル
Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies

2026年9月時点 · JustWatch

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