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水始涸の便り

色が深く、夜が早くなる。余韻は長く残り、ワインは少しずつ温めたくなる。

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お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。

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水始涸秋分
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パターソン × おうむ
繰り返す毎日が、詩になるまで。

Until the repeated days become a poem.

パターソン

幕間に一杯、
Red — 新潟

パターソン
× おうむ

Paterson, 2016 — ジム・ジャームッシュ
prologue

ニュージャージー州パターソンの街で、パターソンという名のバス運転手が暮らしている。

月曜、彼は6時すぎに目を覚まし、シリアルを食べ、バスを走らせ、乗客の会話に耳をすませ、帰り道で犬を散歩させ、バーでビールを一杯だけ飲む。火曜も、水曜も、ほとんど同じ。違うのは、彼が休憩時間にノートへ書きつける詩の行だけだ。

ジャームッシュの一週間は、ワンセットの詩のように、同じ韻を踏みながら、毎日少しずつ違う言葉で繰り返される。マッチ箱への愛が詩になり、滝の音がリズムになる。

観終わったあと、自分の代わり映えのしない一週間が、少しだけ違って見える。月曜の朝の光にも、よく見れば韻が踏んである。

その発見と同じ種類の驚きが、新潟の「おうむ」というワインの中にある。


wine
おうむ 2022 / カーブドッチ
おうむ 2022 / カーブドッチ

一杯の肖像

ツヴァイゲルトという品種は、地味だ。オーストリア生まれの交配品種で、ピノ・ノワールのような神話も、カベルネのような威光もない。日本では北の産地で実直に育つ、労働者のようなブドウだ。

新潟・カーブドッチの醸造家、掛川史人は、その地味な品種を「どうぶつシリーズ」に選んだ。亜硫酸無添加。砂の畑の果実を、毎年ちがう手つきで瓶に詰める。

2022年は、8月と9月の雨が早生のこの品種を困らせた。赤にはせず、果皮と数日だけ過ごした濃いロゼになった。グラスに注ぐと、明るいガーネット。鮮やかな赤い果実、青さを帯びたザクロ。口当たりは柔らかく、じわっと旨みが続く。

毎日同じバスの路線に、毎日違う乗客が乗るように、年ごとに、一杯ごとに、少しずつ表情が変わる。そういうワインだ。


pairing
灰色の朝の窓辺で、使い込んだ机の白いノートをめくる手元
同じ朝に、まだ白い一頁

なぜ、パターソンにこのワインなのか

毎日同じ時間に開けても、同じ味はしない。それを、豊かさと呼ぶ側にいる。

色と色

『パターソン』の色彩は、抑えたブルーグレーが基調だ。バスの座席、作業着、曇り空のニュージャージー。その中で、ローラが家中に描き続ける白黒の円模様と、バーの琥珀色の照明だけが、画面に体温を足していく。

おうむの色は、あのバーの照明に近い。鮮烈な赤ではなく、少し琥珀がかった、夜の終わりの色。一日の反復を終えた人間が、カウンターで向き合うための色だ。

感覚と感覚

おうむは、人の言葉を繰り返す鳥だ。でも飼ったことのある人は知っている。おうむの「おはよう」は毎回同じではない。日によって、機嫌によって、抑揚が違う。反復の中の微差。それはパターソンの詩の作法そのものだ。

このワインにも、反復の中の微差がある。ひと口目で輪郭をつかんだと思っても、ふた口目には別の旨みが顔を出す。同じ言葉を、違う抑揚で繰り返してくる。無添加のワインが持つ、生き物じみた揺らぎだ。

毎日同じ時間に開けても、毎日同じ味はしない。それを欠点と呼ぶ世界もある。この映画と、このワイナリーは、それを豊かさと呼ぶ側にいる。

物語と物語

パターソンは詩を発表しない。ノートに書くだけだ。世界的詩人にならなくても、月曜から日曜までの暮らしの中に詩があれば、人生は静かに豊かになる。

掛川史人の「どうぶつシリーズ」も、コンクールで金賞を競うためのワインではない。点数や評論より、「毎日の食卓で、体に沁みて、また明日も飲みたくなる」ことに照準を合わせている。野心の置き場所が、世間の標準とずれている。そのずれ方が、この映画の主人公とそっくりだ。

愛犬マービンにノートを噛みちぎられた夜、パターソンは絶望する。翌日、滝の前で日本から来た詩人が、白いノートを渡す。空白のページから、また書きはじめる。無添加のワイン造りも毎年それだ。失敗しても、天候に裏切られても、また春から始める。


terroir
角田浜の古い防波堤から眺める冬の日本海と繰り返し寄せる波
毎日同じように、毎日違う波が来る

新潟・角田浜を旅する

パターソンの街には滝がある。グレートフォールズ。詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズが詩に書き、主人公が毎日昼食をとる場所だ。街の反復する日常の真ん中に、轟音を立てて流れ続けるもの。

カーブドッチのある角田浜にも、それに当たるものがある。日本海だ。畑のすぐ向こうで、海は毎日同じように、毎日違う波を打ち続けている。

この土地の畑は海岸由来の砂質土壌で、雨の多い日本では珍しく水はけがいい。ツヴァイゲルトのような早生種は、ここでは力まず色づく。雨の多い年は、赤ではなく濃いロゼになることもある。1992年の開墾から30年、ワイナリーの周りには後進の造り手たちが次々と独立し、「ワインの集落」のようなものができつつある。

バス路線のように規則正しく並ぶ畝と、その横で終わらない反復を続ける海。おうむはこの風景の中で、毎年同じように、毎年違う味に仕上がる。


how to drink
月曜夜の木の食卓に並ぶ肉じゃがと味噌汁、小さな一杯
一週間でいちばん普通の夜に、一杯だけ

この映画の夜に

温度: 12〜14℃。少し冷やすと輪郭が出て、温度が上がると旨みが出る。一本の中で両方試してほしい。同じワインの違う抑揚が聞ける。

グラス: 普段使いのグラスでいい。この映画に乾杯するのに、クリスタルは要らない。バーのビールグラスの精神で。

食事: 平日の晩ごはんに合わせて。肉じゃが、焼き鳥、ハンバーグ、きんぴら。醤油と出汁の料理に、このワインの旨みはまっすぐ寄り添う。チーズならカマンベールを。

タイミング: 月曜の夜にこそ開けてほしい。一週間でいちばん詩から遠い夜が、一番この映画とこのワインに向いている。一杯だけでもいい。バーでの一杯のように。


epilogue

.

「ときには、空白のページが いちばん多くの可能性を持っている」

滝の前でそう言って、日本から来た詩人は パターソンに新しいノートを手渡した。

空になったグラスも、たぶん同じだ。

また明日、注げばいい。 あー、は、ー。


Film

パターソン / Paterson 2016 / アメリカ・ドイツ・フランス / 118分 監督・脚本: ジム・ジャームッシュ 出演: アダム・ドライバー, ゴルシフテ・ファラハニ, 永瀬正敏 音楽: スクワール

配信
見放題 Hulu / U-NEXT / Cinefil Wow Plus Amazon Channel
レンタル Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies
2026年9月時点 · JustWatch

Wine

Cave d'Occi(カーブドッチ)/ おうむ 2022 Zweigelt / どうぶつシリーズ 2022 濃いロゼ / 亜硫酸無添加 / 砂質土壌 / 新潟・角田浜

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おうむ 2022

おうむ 2022

カーブドッチ

Region
新潟
Grape
Zweigelt
Type
red
Vintage
2022
Serve
12–14℃

親しみやすい果実味とほどよい渋み。少し冷やすと輪郭が出る赤。

販売中

表示価格は税込

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おうむ 2022
カーブドッチ
¥3,850

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Film

Paterson

2016 / US / Dir. ジム・ジャームッシュ

配信

見放題
Hulu / U-NEXT / Cinefil Wow Plus Amazon Channel
レンタル
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カーブドッチ / おうむ 2022

Zweigelt

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