AGE VERIFICATION

このサイトでは酒類を取り扱っています。
あなたは20歳以上ですか?

お酒は20歳になってから。未成年者への酒類の販売は法律で禁止されています。

水始涸の便り

色が深く、夜が早くなる。余韻は長く残り、ワインは少しずつ温めたくなる。

Reading room

  • Pairings
  • About
  • Instagram

With thanks to

—
作品を上映し続ける劇場へ
—
ぶどう畑と造り手たちへ
—
幕間に一杯を選んでくれる読者へ

Notices

  • Newsletter
  • Company
  • Support
  • Tokushoho
  • Terms
  • Privacy

お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。

© 2026 cinema.wine

水始涸秋分
PairingsAbout
ログイン
グロリア × Vent Debout
向かい風の中を、ハイヒールで歩く人へ。

For those who walk into the headwind in high heels.

グロリア

幕間に一杯、
Rosé — ルーション

グロリア
× Vent Debout

Gloria, 1980 — ジョン・カサヴェテス
prologue

灯りをひとつだけ残して、冷蔵庫からボトルを出す。瓶の肩が、指のかたちに白く曇る。

注ぐと、色は思っていたより淡い。窓の外の街灯を受けて、サーモンピンクが光る。

口に含む。冷たい石と、かすかな塩。果実は、まだ奥で黙っている。

再生する。

ニューヨーク、ブロンクスのアパート。隣の部屋のドアを叩いたのは、コーヒーを切らしたからだった。それだけの用事だった。

ドアの向こうでは、一家が荷物をまとめている。父親は組織の帳簿をつけていた男で、その中身を外へ漏らした。今夜、殺し屋が来る。

父親は、小さな息子の胸に一冊の手帳を押しつける。男になれ、強くなれ、誰も信じるな、と言う。母親は、隣の女に頭を下げる。この子を連れていって。

子どもは嫌いなの、とグロリアは言う。あんたのところの子は、とくに。

それでも数分後、彼女は六歳の少年の手を引いて、廊下に出ている。背中で、銃声を聞く。

グラスの中は、まだ硬い。今夜は、それでいい。この映画も、はじめは誰にも優しくない。


wine
Vent Debout 2023 / ヨヨ
Vent Debout 2023 / ヨヨ

一杯の肖像

グラスを、街灯のほうへかざす。

淡い。夕方の光を受けた肌のような、サーモンピンク。可憐な色だと、誰もが思う。

けれど、冷たいうちに口に含むと、印象が裏切られる。舌に触れるのは、果実より先に石だ。乾いた、噛めそうなミネラル。その下を、塩がひと筋、細く通っていく。赤い果実も、薔薇のつぼみも、まだ閉じたまま、奥で待っている。

ぶどうは、シラー。スペイン国境の手前、アルベールの山裾の畑で育った。房のまま、そっと搾る。色がつきすぎる前に、果汁だけをとる。化学的なものは使わず、亜硫酸もほとんど加えない。

名前は、ヴォン・ドゥヴー。船乗りの言葉で、船首に真正面からぶつかってくる風のこと。前に進むのが、いちばん難しい風だ。

造り手は、ローレンス・マニャ・クリエフ。昔から呼ばれてきたあだ名は、ヨヨ。


pairing
風にコートの裏地をなびかせ、街の歩道を進む人の後ろ姿
風がやむのを、待たない

なぜ、グロリアにこのロゼなのか

硬さは、消えない。ほどけて、守るほうへ向きを変えるだけだ。

空き部屋の朝 — 開けたてのうちに

二人は、マンハッタンの空き部屋に隠れる。

テレビをつけると、少年の写真が映っている。誘拐の疑いがかけられているのは、グロリアだ。

彼女は少年の扱い方を知らない。二十の質問でもする? テレビでも見てる? 朝食に焼いた卵は、焦げる。置いてきた猫のことばかり口にする。あの子はどうなるの。あんたをどうすればいいの。

外に出ると、車が横に停まる。男たちが、帳簿を渡せと言う。グロリアはハンドバッグから銃を出して、撃つ。車は、ひっくり返る。

撃った瞬間に、彼女は知る。もう戻れない。この子と、同じ側に来てしまった。

グラスは、まだ冷たい。石と、塩。香りは少なく、口数も少ない。優しさは、どこにも見当たらない。

安ホテルと地下鉄 — 温まってくる

銀行の貸金庫を空にする。自分のために貯めてきたものを、鞄に詰める。泊まるのは、壁の薄い安宿だ。

少年は、父親の言葉を守ろうとする。おれが男だ、と叫ぶ。おれが男なんだ、あんたじゃない。グロリアは言い返す。あんたは何も聞かない、何もわかってない、頭がおかしくなりそう。

とうとう彼女は、少年を置いていく。走って逃げなさい、できるだけ速く。

けれど、少年が男たちに連れ去られたと知ると、彼女は戻ってくる。ひとりを撃ち、少年の手をつかみ、タクシーから地下鉄へ走る。追ってくる男たちを、車両の乗客たちが押し返す。

揺れる車内で、少年が言う。あんたは、ぼくのお母さんで、お父さんで、家族ぜんぶだ。友だちでもあるし、ガールフレンドでもある。

グラスも、手の中で温まってきた。石の奥から、赤い果実がのぼってくる。木苺と、赤すぐり。閉じていた薔薇のつぼみが、ゆっくりほどける。乾いたハーブの匂い。さっきまでの硬い飲み物と、同じものとは思えない。

それでも、舌の奥に、あの塩がひと筋ある。

最上階の部屋 — 底のほう

グロリアは、少年に言い含める。私が戻らなかったら、ひとりで列車に乗って、ピッツバーグへ行きなさい。

そして、ひとりで出かけていく。組織の男たちが集まる、ホテルの上の階の部屋へ。かつて、よく知っていた男たちだ。ハイヒールのまま、その部屋に入り、帳簿をテーブルに置く。

少年は、待つ。約束の時間が過ぎる。彼は、ひとりで列車に乗る。

グラスは、底のほうだ。すっかり手の温度になって、果実の奥から、胡椒のようなスパイスが立ってくる。ロゼというより、ワインそのものの味がする。

そして、塩のひと筋は、まだそこにある。開けたての冷たい石と一緒にいた、あの一本が、最後まで舌に残っている。

グロリアは、はじめから最後まで硬い女だった。その硬さは、なくならなかった。子どもの手を引いたとき、向きを変えただけだ。


芯のあるロゼなら、ほかにもある。この一本をこの映画の隣に置くのは、造り手が、グロリアと同じものを手放したからだ。

ローレンスは、パリの繊維業界で営業の責任者をしていた。三十五歳のとき、その仕事を離れた。故郷ペルピニャンに近いバニュルスへ移り、打ち捨てられた段々畑を買った。

その畑が捨てられていたのは、急すぎて、機械が入れなかったからだ。だから彼女は、ラバと馬と、自分の手で耕している。フランスでいちばん手間のかかる畑のひとつだと言われる。

グロリアも、貯めてきたものを鞄に詰めて、誰も引き受けない子どもの手を取った。

そして、このボトルの年。二〇二三年のルーションは、一年半雨がほとんど降らない、記録的な干ばつの中にあった。一年の雨は二百ミリに届かず、収穫は歴史的に少なかった。

名前のとおりの向かい風の年に、ぶどうは実をつけ、このロゼになった。


terroir
アルベール山麓の農道脇に積まれた片麻岩の石垣、地衣類と乾いた草
乾いた道の脇に、石の芯が残る

ルーション・バニュルス — 風の吹き抜ける斜面

フランスの最南端、スペイン国境の手前。ピレネー山脈が、地中海に沈み込む。その最後の斜面に、バニュルスの町がある。

黒い片岩の急斜面が、海からそのまま立ち上がる。そこに何世紀ぶんもの段々畑が刻まれている。少し北のアルベールの山裾では、土は花崗岩が崩れた砂になる。Vent Debout のシラーは、そちらの畑から来る。

ここは長く、甘口の酒精強化ワインの土地だった。いまはこの斜面に、自由なワインを造る小さな造り手たちが集まっている。

山から海へ、トラモンタンと呼ばれる乾いた強い風が吹き抜ける。海からは、潮を含んだ風が上がってくる。風は畑を乾かし、ぶどうを病気から守る。薬に頼らずに育てられるのは、この風のおかげだ。

この土地では、向かい風が、ぶどうを守っている。

ニューヨークの夜を逃げまわるうちに、グロリアは少年の母親になっていった。逃げることが、守ることになっていった。同じ逆さまの理屈が、この斜面にもある。


how to drink
夜の木の食卓に置かれたサーモンピンクのロゼ、生ハムとオリーブ
守ると決めた夜の、テーブルに

この映画の夜に

冷蔵庫から出して、少しだけ置いておく。瓶の肩が曇って、触れると指がひんやりするくらい。そのくらいで開けると、石と塩から始まる。

グラスは、白ワイン用の、少し膨らみのあるものを。温まるにつれて開いていく香りを、閉じ込めずにすむように。

テーブルには、アンチョビをのせたパンと、生ハム、オリーブ。バニュルスの隣町コリウールは、アンチョビの港だ。お腹が空いていたら、スパイスを効かせたラムか、ローストチキンを。

部屋の灯りは、ひとつだけ。窓の外の街灯が、グラスに届くくらいに。

グロリアが車に向かって撃つころ、グラスはまだ硬い。地下鉄で少年が家族の話をするころ、果実がほどけてくる。少年がひとりで列車に乗るころには、底のほうのスパイスと塩が待っている。

ひと口だけ、墓地の場面のために残しておく。


epilogue

.

ピッツバーグの墓地で、少年はひとりきりだ。 戻ると言った人は、戻らなかった。

一台の車が止まる。 白髪の老婦人が、ゆっくり降りてくる。

少年は、それが誰だかわかる。 走っていく。

子どもは嫌いだと言った人が、 両腕を広げて、待っている。

香りは、すっかり変わった。 塩のひと筋だけが、同じだ。


Film

グロリア / Gloria 1980 / アメリカ / 123分 監督・脚本: ジョン・カサヴェテス 出演: ジーナ・ローランズ, ジョン・アダメス, バック・ヘンリー 受賞: ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞

配信
見放題 U-NEXT
レンタル Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies / FOD
2026年9月時点 · JustWatch

Wine

YOYO / Vent Debout 2023 Syrah 100% / Direct press Granite sand (Albères) / ABV 12.5% Roussillon (Banyuls), France

この一本を、手に取る

Vent Debout 2023

Vent Debout 2023

ヨヨ

Region
ルーション
Grape
Syrah 100%
Type
rosé
Vintage
2023
Serve
10–12℃

冷たいうちは石のようなミネラルと細い塩気。温まるにつれて木苺や赤すぐり、薔薇のつぼみがほどけ、底のほうで胡椒のようなスパイスが立つ。塩気のひと筋は最後まで残る。可憐な色に芯のある、食卓向きのロゼ。

残りわずか

表示価格は税込

20歳未満の方への酒類販売はできません。購入手続き時に年齢確認を行います。原則クール便でお届け。

送料・配送・返品について →特定商取引法に基づく表記 →
Vent Debout 2023
ヨヨ
¥5,500

このワインが気になった方へ。
新しい記事、少量入荷、暦に沿った次の幕間をメールでお届けします。

Film

Gloria

1980 / US / Dir. ジョン・カサヴェテス

配信

見放題
U-NEXT
レンタル
Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies / FOD

2026年9月時点 · JustWatch

Wine

ヨヨ / Vent Debout 2023

Syrah 100%

ルーション

¥5,500

Next pairing
ノマドランド × シュール・レ・ニュアージュ
雲の上に、根を下ろす。