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お酒は20歳になってから。未成年者への酒類の販売は法律で禁止されています。

水始涸の便り

色が深く、夜が早くなる。余韻は長く残り、ワインは少しずつ温めたくなる。

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お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。

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水始涸秋分
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かもめ食堂 × WINE CHAN WHITE
遠い国で、肩の力を抜くための白。

A white for letting your shoulders down, far from home.

かもめ食堂

幕間に一杯、
White — ネルソン

かもめ食堂
× WINE CHAN WHITE

Ruokala Lokki, 2006 — 荻上直子
prologue

冷蔵庫から出した瓶が、すこし曇っている。

栓を抜いて、グラスに注ぐ。淡いレモン色が、まっすぐには澄まない。細かな濁りが光を抱えたまま、ゆっくりと落ち着いていく。

手のひらを濡らして、塩をひとつまみ。ごはんを、ふんわりと握る。

冷たいのを、ひと口。酸が、まっすぐに来る。

ヘルシンキの角の小さな食堂にも、まだ客はいない。

サチエは、誰もいないカウンターを拭く。布巾をたたむ。豆を挽いて、コーヒーを淹れる。窓の外で、地元の女たちが三人、店のなかを覗きこんでは、ひそひそと何か言いあって、行ってしまう。

子どもがやってる店なのかしら、と言っていたらしい。

サチエは、にっこり笑う。それから、またカウンターを拭く。


wine
WINE CHAN WHITE 2023 / アレックス・クレイグヘッド
WINE CHAN WHITE 2023 / アレックス・クレイグヘッド

一杯の肖像

グラスを、窓の光にかざしてみる。

漂白したような白ではない。わずかな濁りと、黄色みを残した白。無濾過のまま瓶に詰めたから、こうなる。毎日洗って、毎日使う布巾の白に似ている。

鼻を近づけると、柑橘と、白い花。その奥に、摘んだばかりの青いハーブ。冷えているうちは、香りは控えめで、口のなかは澄んでいる。

瓶の名前は、WINE CHAN。

東京・錦糸町に、「わいんちゃん」という小さな店を開いていた小林さんがいる。客のグラスに、自分の選んだワインを注ぐ店だった。その小林さんが、時折ニュージーランドまで渡って、ネルソンの丘の醸造家と一緒に仕込んだ白だ。店の呼び名が、そのまま瓶に残った。

一緒に仕込んだ醸造家は、アレックス・クレイグヘッド。シドニー生まれの、元料理人だ。有機栽培の葡萄を、野生の酵母で発酵させ、亜硫酸も足さず、濾過もせずに詰める。

料理人と、店の主人。どちらも、人に出すものをつくってきた人だ。


pairing
開店前の白木のカウンターに置かれた皿と布巾、窓辺のシナモンロール
ちゃんと整えて、待ちすぎずに待つ

なぜ、かもめ食堂にこの白なのか

人に握ってもらったおにぎりは、おいしい。

客の来ない店 — 冷えているうちに

最初の客は、日本のアニメが好きな青年、トンミだった。

サチエは喜んで、コーヒーは永遠に無料です、と言う。トンミは、ガッチャマンの歌詞を最後まで教えてほしいと頼む。サチエは、どうしても思い出せない。

思い出せないまま入った街のカフェで、日本人の女がひとり、ムーミンの本を読んでいる。ミドリだ。目をつぶって世界地図を指したら、フィンランドに当たった、という人だ。ミドリは、ガッチャマンの歌詞を、全部書いてくれる。

それでも、店に来るのはトンミだけだ。ミドリはガイドブックに載せようと言う。サチエは、それはこの店らしくない、と断る。

ある日、ひとりの男がふらりと入ってきて、コーヒーを淹れてみせる。粉に指をあてて、コピ・ルアック、とおまじないを唱える。コーヒーは、自分で淹れるより、人に淹れてもらうほうがうまいんだ、と言う。

グラスはまだ冷たい。酸はまっすぐで、果実は澄んでいる。香りも、まだ遠慮がちだ。磨かれて、誰もいないカウンターの味がする。

シナモンロールの匂い — テーブルの上で

ある午後、サチエはシナモンロールを焼く。

オーブンの匂いが、窓の外へ流れていく。覗いては帰っていった三人の女たちが、今日は、扉を開ける。

店に、人の声が増えていく。

ミドリは、フィンランドの人の口に合うように、トナカイの肉や、ニシンや、ザリガニを具にしたおにぎりを試す。三人で、黙って食べる。黙ったまま、顔を見あわせる。おにぎりの具は、元のままになる。

空港で荷物をなくしたマサコが来る。毎日、荷物が見つかったかどうかを電話で聞き、そのうち店を手伝いはじめる。

毎日、外から店を睨んでいた女が、ついに入ってくる。強い酒を頼んで、一気に飲む。もう一杯をサチエに差しだし、断られる。ミドリは、首を振る。女は、グラスを黙ってマサコに向ける。マサコは女の目を見て、うなずき、飲み干す。女はその場で倒れて、いびきをかいて眠ってしまう。

家まで送り届けると、女はソファで泣きだした。夫が出ていったのだという。マサコは、フィンランド語はわからない。わからないまま、手を握って、ずっとうなずいている。

グラスは、テーブルの上で少しぬるくなっている。遠慮がちだった香りが、ここで開く。柑橘の奥から、熟れた果実と、青いハーブがのぼってくる。濁りのぶんだけ、口のなかに、やわらかな厚みがある。

扉が開いて、人が入ってくるときの香りだ。

父のおにぎり — 底のほう

ミドリが聞く。どうして、おにぎりなんですか。

サチエは、父の話をする。母を早くに亡くして、家のことは自分でやってきた。父がおにぎりを握ってくれたのは、一年に二度だけ。運動会と、遠足の日。おにぎりは、自分でつくるより、人につくってもらったほうがずっとうまいんだ。父は、そう言っていた。

サチエは、あの店で、毎日、人のためにおにぎりを握っている。

グラスの白も、底のほうだ。すっかり手の温度になって、冷たさはない。そのかわり、濁りの奥にあったものが、ぜんぶ出てきている。酸は角がとれ、果実とハーブがひとつになり、塩をきかせたごはんの甘さの隣で、長く残る。

自然派の白なら、ほかにもある。この一本をこの映画の隣に置くのは、これが、小さな店の主人が、自分の客に注ぐために、遠い国で仕込んだ白だからだ。

自分で選んで、自分で開けた瓶なのに、このグラスには、人に注いでもらった味がする。

ある日、ミドリとマサコが、互いの「いらっしゃいませ」を真似しあって笑っている。力が入りすぎている、固すぎる。サチエさんのがいちばんいい、と二人は言う。サチエは、言わない。

そのとき、扉が開く。

サチエは、いつもの顔で、いらっしゃいませ、と言う。


terroir
雨上がりのネルソン港にある濡れた木の桟橋と小さな漁船
海に開いた、もうひとつの港町

錦糸町から、ネルソンへ

錦糸町から、ネルソンまで、およそ九千キロある。

ネルソンは、ニュージーランド南島の北の端、タスマン湾に面した港町だ。国内でも日照に恵まれ、夏は穏やかで、空が長い。絵描きや、小さな醸造家が好んで住みつく、おおらかな土地だ。

ヘルシンキも、海に開いた港の町だった。サチエがヘルシンキで店を開いたように、小林さんは、錦糸町のカウンターを営みながら、この港町へ通った。どちらも、誰かに頼まれたわけではない。

クレイグヘッドの畑は、町から少し内陸に入った、アッパー・ムーテレの丘にある。古い砂礫が風化してできた、粘土の土。その丘に、十四の品種が植えられ、有機栽培で育てられている。

この白に、どの品種が入っているかは、瓶には書かれていない。

おにぎりと同じだ。具は、食べてみるまでわからない。梅か、鮭か、おかかか。わからないまま口に入れて、塩と、米と、握った人の手の加減で、うまいかどうかが決まる。

このグラスの白も、そういうふうに飲めばいい。


how to drink
曇った窓越しに街路を望む、静かな食堂の空席
形式張らず、明るいうちから

明るいうちに

休日の午後、まだ外が明るいうちに、瓶を冷蔵庫でよく冷やしておく。

米を炊く。梅と、焼いた塩鮭と、醤油をまぶしたおかかを用意する。

できれば、誰かと観る。おにぎりは、相手のぶんを握る。自分のぶんは、握ってもらう。そして、グラスは相手に注いでもらう。

グラスは、小ぶりの白ワイングラスでいい。なければ、ふだんの湯呑みでもかまわない。

冷たいうちに、客の来ない店を観る。シナモンロールの匂いで扉が開くころには、グラスの香りも開いている。オーブンがあるなら、シナモンロールを焼いておいて、最後に少しだけ白を残しておく。意外なことに、喧嘩しない。

観終わるころには、窓の外が暗くなっている。


epilogue

.

グラスが空になる。

コーヒーは、人に淹れてもらうほうがうまい。 おにぎりも、人に握ってもらうほうがうまい。

この白は、 遠い国で、 誰かが、あなたのぶんを握っておいてくれた一杯だ。


Film

かもめ食堂 / Ruokala Lokki 2006 / 日本 / 102分 監督・脚本: 荻上直子 原作: 群ようこ 出演: 小林聡美, 片桐はいり, もたいまさこ 撮影地: ヘルシンキ, フィンランド

配信
見放題 Hulu / U-NEXT
レンタル Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies / FOD
2026年9月時点 · JustWatch

Wine

Alex Craighead Wines / WINE CHAN WHITE 2023 with 小林(わいんちゃん、錦糸町) Organic / Wild yeast / No SO2 added / Unfiltered Upper Moutere, Nelson, New Zealand

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WINE CHAN WHITE 2023

WINE CHAN WHITE 2023

アレックス・クレイグヘッド

Region
ネルソン
Grape
ブレンド(品種非公開)
Type
white
Vintage
2023
Serve
8–10℃

無濾過のわずかな霞みを残した、生成りの白。冷えているうちは柑橘と白い花、まっすぐな酸。温度が上がると熟れた果実と青いハーブが開き、濁りのぶんのやわらかな厚みと、長めの余韻が出てくる。

販売中

表示価格は税込

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WINE CHAN WHITE 2023
アレックス・クレイグヘッド
¥5,390

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Film

Ruokala Lokki

2006 / JP / Dir. 荻上直子

配信

見放題
Hulu / U-NEXT
レンタル
Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies / FOD

2026年9月時点 · JustWatch

Wine

アレックス・クレイグヘッド / WINE CHAN WHITE 2023

ブレンド(品種非公開)

ネルソン

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