
アンサはスーパーで働いている。期限切れの食品を持ち帰ったのが見つかって、クビになる。
ホラッパも、クビになる。工事現場で、酒が抜けなくて。
ふたりはカラオケバーで出会う。名前は聞かない。電話番号を書いた紙を、ホラッパは落とす。
これだけ書くと暗い話に聞こえるが、そうならないのがカウリスマキだ。壁は緑に塗られ、コートは黄色で、テーブルクロスは赤い。誰も泣き言を言わない。ラジオが戦争のニュースを流すたび、アンサは黙ってスイッチを切って、夕食の支度を続ける。
働いて、眠る。そのあいだに、ほんの少しだけ自分のための時間がある。それはやがて、二人のための時間になる。カラオケ。映画館。二人分の食器。
その「あいだ」のための赤ワインが、ボージョレにある。名前からして、そのために造られている。

一杯の肖像
フランス語に、métro, boulot, dodo という決まり文句がある。地下鉄、仕事、寝るだけ。判で押したような毎日、という意味だ。
このキュヴェの名前は、その最後のひとつを置き換えている。メトロ、ブロ、ボジョ——地下鉄、仕事、ボージョレ。眠るだけだった夜に、一杯を割り込ませるという宣言だ。
グラスの中身もその名前にふさわしく軽やかで、モレロチェリーとイチゴジャムの香りが弾む。樹齢50年のガメイを房ごとタンクに入れて醸すマセラシオン・カルボニック。渋みは軽く、果実は明るく、よく冷えたところから美味い。深刻な顔をしない赤だ。
造っているのは「ドメーヌ・デ・カナイユ」——訳せば「ならず者たちのドメーヌ」。ワインの学校で出会った二人組、セラーマン上がりの醸造家シモン・ペロと、ソムリエのエティエンヌ・ユボーが、2019年に始めたばかりの若い蔵だ。畑は先代から有機栽培が続く区画を引き継ぎ、ビオディナミに転換。冬には羊を放して草を食ませている。
労働のワイン、ボージョレ。その伝統のいちばん新しい世代が、いちばん正直な名前をつけた一本。

なぜ、枯れ葉にメトロ・ブロ・ボジョなのか
仕事と眠りのあいだに、自分のための一杯を確保する。ささやかだが、これは反乱だ。
名前と名前
アンサとホラッパの毎日は、métro, boulot, dodo そのものだ。職場と部屋の往復。解雇されれば、次の職場と部屋の往復が始まる。
映画が描くのは、その反復に差し込まれる例外の時間だ。カラオケバーの一晩。映画館の暗がり。コーヒーとパンだけの夕食に、一輪の花。どれも小さくて、どれも決定的に大事なものたち。
「dodo」を「Beaujo」に置き換えたこのワインは、つまりその例外の時間の側に立っている。仕事と眠りのあいだに、自分のための一杯を確保すること。ささやかだが、これは反乱だ。アンサが戦争のニュースを消して夕食を作るのと、同じ種類の反乱だ。グラスをもう一脚出せば、その一杯は二人の時間にもなる。
色と色
カウリスマキの画面は、貧しさを描いて色彩に富む。くすんだヘルシンキの中で、壁の緑、扉の青、コートの黄色、クロスの赤だけが、ほとんど贅沢と呼びたいくらい鮮やかに塗られている。感情を語らない人々の代わりに、色が語る。
カルボニックのガメイは、ワインの世界の原色だ。チェリーとイチゴの、屈託のない明るさ。安酒の粗さはなく、かといって高級酒の気取りもない。¥3,960。この価格帯でこの晴れやかさは、壁を緑に塗る種類の贅沢とよく似ている。
物語と物語
カラオケバーで出会った中年の二人は、名前も知らないところから、ゆっくり始める。
このドメーヌも、二人組から始まった。ワインショップのセラーマンから醸造家になったシモンと、レストランのフロアからやってきたソムリエのエティエンヌ。学校で出会い、2019年、南ボージョレの丘に自分たちの蔵を構えた。ドメーヌ名は「ならず者たち」。カウリスマキが長く撮り続けてきた、うだつの上がらない、しかし品位を失わない人々と、同じ呼び名を持つ。
遅く出会って、小さく始めて、毎日を続ける。映画とワインが、同じ生き方を勧めてくる。

南ボージョレを旅する
ボージョレの南部は「ピエール・ドレ」——黄金の石、と呼ばれる。石灰岩の石壁が夕方の光で蜂蜜色に染まる村々の一帯だ。テルナンはその丘のひとつにあり、リヨンから北西へわずか30キロしか離れていない。
この近さが、ボージョレの性格を決めた。リヨンの大衆食堂「ブション」では、昔から労働者たちが仕事終わりにボージョレを飲んできた。気取った産地の格付けとは別の場所で、「今日も働いた」という一日の締めくくりとして注がれてきたワイン。メトロ・ブロ・ボジョという名前は、その歴史の正統な続きでもある。
カナイユの畑は標高450〜550メートル、花崗岩の斜面にある。ボージョレとしては高い立地で、夜が冷えるぶん、果実の明るさに酸の背骨が通る。畑は農薬も除草剤も使わないビオディナミ。冬には羊の群れが下草を食み、畑を耕す。
樹齢50年のガメイの古木は、この蔵の二人より年上だ。先代のジャン・ジャック・ペールが2005年から有機で守ってきた樹を、若いならず者たちが引き継いだ。
働く人の一杯は、こうして働く人の手から手へ、渡されていく。

この映画の夜に
温度: 13〜14℃。少し冷やして。冷蔵庫に30分で足りる。カルボニックの果実は、ひんやりしているほうが弾む。
グラス: 気取らないもの。なんならタンブラーでもいい。ブションの流儀で。
タイミング: 平日の夜にこそ。この映画は81分しかない。仕事から帰って、夕食を作って、それでも観終わる長さだ。ワインも一本空けずに、二杯でやめて明日に残す——それができる気軽さのワインでもある。
食事: ソーセージとポテト、あるいはただのパンとチーズ。映画の中の質素な食卓に寄せるなら、それで十分すぎる。
二人なら: 二人分注ぐこと。このワインは、アンサが買い足した二枚目の皿と同じ用途でできている。
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地下鉄、仕事、眠り。
そのあいだに、一杯。
明日もまた、働けるように。
Film
枯れ葉 / Kuolleet lehdet (Fallen Leaves) 2023 / フィンランド・ドイツ / 81分 監督・脚本: アキ・カウリスマキ 出演: アルマ・ポウスティ, ユッシ・ヴァタネン, ヤンネ・フーティアイネン, ヌップ・コイヴ 受賞: カンヌ国際映画祭 審査員賞
配信
見放題 Cinefil Wow Plus Amazon Channel / U-NEXT
レンタル Prime Video / FOD
2026年9月時点
Wine
Domaine des Canailles / Métro Boulot Beaujo 2021 Gamay 100%(樹齢50年) ビオディナミ / 全房マセラシオン・カルボニック / 無濾過・無清澄 Ternand, Beaujolais, France



