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水始涸の便り

色が深く、夜が早くなる。余韻は長く残り、ワインは少しずつ温めたくなる。

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お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。

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水始涸秋分
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アメリ × モルゴン キュヴェ・カミーユ
クレームブリュレを割るように、一口。

Crack the surface, like a crème brûlée.

アメリ

幕間に一杯、
Red — ボージョレ

アメリ
× モルゴン キュヴェ・カミーユ

Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain, 2001 — ジャン=ピエール・ジュネ
prologue
雨上がりのモンマルトルの石畳と緑の日除け、窓辺の赤い花
現実より、ほんの少しだけ色づいた午後

ある土曜日の、午後4時12分。

あなたは台所で、ボトルの首に指をかけている。冷蔵庫から出したばかりの瓶が、指先に少し冷たい。コルクが、ゆっくり上がってくる。

1997年の夏の終わり。モンマルトルのアパートで、ひとりの女性の手から香水瓶の栓が落ちた。栓は床を転がって浴室の壁に当たり、タイルが一枚はずれた。その奥に、四十年前の男の子が隠したブリキの箱が眠っていた。

アメリ・プーランの人生は、小さな栓がひとつ落ちたところから動きはじめる。

ポン、と短い音がする。 あなたの手の中でも、栓がひとつ抜けた。

語り手が、あなたのことを少しだけ話す。

あなたの好きなこと。コルクが抜ける、あの短い音。瓶の口からのぼってくる、最初の香り。透けた赤を、窓の光にかざしてみること。

嫌いなこと。古いアメリカ映画で、運転しながら前を見ない人。

最後のひとつは、アメリと同じだ。


wine
Morgon Cuvee Camille 2021 / マルセル・ラピエール
Morgon Cuvee Camille 2021 / マルセル・ラピエール

一杯の肖像

グラスに注ぐ。細い赤が、音もなく落ちていく。

透きとおるルビー。グラスの向こうにある自分の指が、透けて見える赤だ。

鼻を近づける。まずダークチェリーと黒すぐり。少し遅れて、シナモンを効かせた焼き菓子のような、甘いスパイス。

一口目は、驚くほど軽い。果実が舌の上を通り過ぎて、すぐにいなくなる。そのあとに、絹のような手ざわりが残る。まだ冷たいうちは、その絹はほんの薄い一枚だ。

ボトルの名前は、キュヴェ・カミーユ。モルゴンの造り手、マルセル・ラピエールの娘の名前だ。

マルセルは1980年代に醸造学者ジュール・ショヴェに学び、培養酵母も添加物も使わないワイン造りへ舵を切った。無謀だと言われたそのやり方が、いまではボジョレーの自然派の礎になっている。2010年にマルセルが世を去ると、畑と蔵は息子のマチューと娘のカミーユが受け継いだ。

このキュヴェは2013年、カミーユが蔵に戻ったときに生まれた。名前は彼女のもので、同じカミーユという名前だった祖父、マルセルの父へのあいさつでもある。

祖父から父へ、父から娘へ。名前と、技と、情熱が、手から手へ渡されていく。


pairing
コート・デュ・ピィの古樹の根元に散らばるピンクがかった花崗岩
軽やかさの奥に残る、花崗岩の小さな芯

なぜ、アメリにキュヴェ・カミーユなのか

栓がひとつ落ちて、世界が少しだけ変わる。

壁の中の箱

アメリは箱の持ち主を探し当てる。道端の電話ボックスにそっと箱を置いて、電話を鳴らす。受話器を取りに入った男が箱に気づき、ふたを開ける。子どものころの宝物が出てくる。男は、泣く。

アメリはそれを物陰から見ている。誰かを少しだけ幸せにすると、自分の胸まで温かくなる。彼女はその温度を、このとき初めて知る。

あなたのグラスは、まだ冷たい。チェリーが明るく、まっすぐに通り過ぎていく。子どもの宝物のように単純で、きらきらしている。

画面の赤と緑も見てほしい。ジャン=ピエール・ジュネ監督はパリの路上から車をどかし、落書きを消し、街じゅうを赤と緑に染めた。現実より少しだけ温かいパリの赤は、あなたのグラスの赤と地続きに見える。

水のグラスを持つ娘

同じ建物に、ほとんど外へ出ない老人がいる。骨がガラスのように脆く、人々は彼を「ガラス男」と呼ぶ。彼は毎年、ルノワールの『舟遊びをする人々の昼食』を一枚ずつ模写している。

どうしても描けない顔がひとつある。にぎやかなテーブルの真ん中で、ひとり水のグラスを口もとに運んでいる娘だ。まわりはみんな誰かと話しているのに、彼女だけが、どこか別のところを見ている。

アメリと老人は、その娘について話す。話しているうちに、観ているこちらは気づいてしまう。アメリは絵の娘のことを話しながら、自分のことを話している。誰かのためならいくらでも動けるのに、自分のための一歩だけが出ない人のことを。

このあたりで、注ぎ足す。グラスは手の温度を吸って、少しぬるくなっている。さっきまではなかった絹の厚みと甘いスパイスが、奥から出てくる。軽いワインだと思って割ってみたら、中は思いがけず深い。

気づけば、あなたもグラスを口もとに運んでいる。絵の中の娘と同じ角度で。

ドアの向こう

アメリは、ずっと気になっていた青年ニノに、自分から会いにいけない。拾ったアルバムを名前も告げずに返し、モンマルトルの石段に矢印を描いて、彼を導いてみせる。それなのに、目の前に来た彼には声をかけられない。

そんな彼女に、ガラス男はビデオで伝言を残す。あなたの骨は、ガラスじゃない。人生にぶつかっても、割れたりしない、と。

終わりのころ。開けてから時間のたったワインは、果実が少し引いて、そのかわりに硬い芯がはっきりしてくる。モルゴンの花崗岩の芯だ。軽やかさの下にずっとあった、ぶつかっても割れないもの。

アメリは、自分のためにドアを開ける。


terroir
ボジョレーの畑で収穫箱のガメイを選り分ける手元
一房ずつ確かめる、軽やかさを支える手仕事

モルゴンを旅する

終わりに残った硬い芯が、どこから来たのかを辿ってみる。

リヨンから北へ車で1時間。ボジョレーと聞くと11月のヌーヴォーを思い浮かべる人が多いけれど、なだらかな丘には10のクリュが静かに並んでいる。モルゴンはその中心のひとつで、村の真ん中に、コート・デュ・ピィという丘が盛り上がっている。

カミーユの区画は、その丘の南西向きの斜面にある。土は浅く、すぐ下はピンクがかった花崗岩の岩盤だ。ブドウの根は水を求めて、岩の割れ目へ潜っていく。午後の日をたっぷり浴びた房は、驚くほど味が濃い。

ラピエールの畑でやっていることは、拍子抜けするほど地味で厳密だ。有機栽培。手摘み。健全な房だけを選ぶ。房ごと、潰さずに、上がすぼまった木の桶へ。このキュヴェは、ほかのモルゴンより長く醸す。その時間が、軽やかさに骨格と奥行きを与えている。

ジュネ監督が「本物より少しだけ美しいパリ」を無数の細部から作り上げたように、ラピエールの軽やかな一杯も、見えない手仕事の上に立っている。軽やかさは、手を抜いた結果ではなく、設計の成果だ。


how to drink
パリの小さなカフェで食べかけのクレームブリュレとスプーン
薄いカラメルを割る、その瞬間まで

この映画の夜に

土曜の午後4時すぎ。ボトルは冷蔵庫で20分だけ冷やしておく。14〜16℃くらい、少しひんやりしているほうがガメイの果実が際立つ。グラスは、大きめのブルゴーニュグラスを。ボウルが大きいほど、奥のスパイスを拾える。

テーブルには、パリの総菜屋で買えるようなものを。ハム、パテ、リエット、冷めても美味しいキッシュ。冷蔵庫の奥には、クレームブリュレをひとつ隠しておく。

再生する。壁の中の箱の場面で注ぐ。ガラス男のアトリエで、注ぎ足す。

クレームブリュレは、最後まで出さないでおく。アメリがドアを開けたら、スプーンの背で表面を割る。パリッという音と、その下のやわらかさ。グラスに残った最後の一口と、いっしょに。

まだ日の残っているうちに観はじめると、映画が終わるころ、窓の外の光が少しだけ赤くなっている。


epilogue

.

エンドロールが流れる。グラスは空になっている。

アメリは、ひとの好きなことをよく知っていた。 あなたにも、好きなことをひとつだけ知っている人がいるはずだ。 水切りが上手な人。クレームブリュレの表面だけ、先に食べてしまう人。

この一本を、その人に送る。 理由は、書かなくていい。

ある日の午後4時12分。誰かの玄関で、呼び鈴が鳴る。


Film

アメリ / Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain 2001 / France / 122分 監督: ジャン=ピエール・ジュネ 撮影: ブリュノ・デルボネル 音楽: ヤン・ティルセン 出演: オドレイ・トトゥ, マチュー・カソヴィッツ

配信
見放題 Hulu / U-NEXT / Cinefil Wow Plus Amazon Channel
レンタル Prime Video / Apple TV Store / Google Play Movies
2026年9月時点 · JustWatch

Wine

Marcel Lapierre (M. & C. Lapierre) / Morgon Cuvée Camille 2021 Gamay 100% 有機栽培 / 全房セミ・マセラシオン・カルボニック / 木桶で長めの醸し / SO2最小限 Côte du Py, Morgon, Beaujolais, France

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Morgon Cuvee Camille 2021

Morgon Cuvee Camille 2021

マルセル・ラピエール

Region
ボージョレ
Grape
Gamay 100%
Type
red
Vintage
2021
残りわずか

表示価格は税込

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Morgon Cuvee Camille 2021
マルセル・ラピエール
¥7,700

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Film

Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain

2001 / FR / Dir. ジャン=ピエール・ジュネ

配信

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2026年9月時点 · JustWatch

Wine

マルセル・ラピエール / Morgon Cuvee Camille 2021

Gamay 100%

ボージョレ

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